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『ワタシは私の時間を纏う。』編集後記

文 牧野貴子(DARUMA)



atelier naruse(アトリエナルセ)さんと2020年から始まったコラボ企画、これまでのニットアイテムを集めたパターンブックがこの度発売しました。ありがたいことにコラボ企画がはじまってから今年で5年が経ち、集大成ともいえるような1冊の本になりました。できあがったこちらの本にはショートムービーならぬイメージ動画を切り取った写真と小さなお話しが掲載されています。これまでには無かった新たな試みとして、編み物する時の気持ちを本と動画に閉じ込めました。

そんな今回の本づくり。どんな風に始まったのか、そして進んでいったのかを編集後記でまとめてみました。


ことの始まりは2023年の10月。今年で5年めになるコラボニット企画ですが、ニットキットはこれまで期間を決めて発売してきました。発売の終了したパターンがこのまま世に出すことができないのは残念に思い、これまでのアイテムを集めて本にすることが決まりました。 10月のとある日にアトリエナルセのお二人が暮らす宝塚のご自宅へ、本づくりのご相談へ伺ったのでした。



家のあちこちにある本棚には物語やエッセイ、文化、伝記、アート、コミック、絵本などあらゆるジャンルの本がぎっしり。元々コピーライターや編集のお仕事をされていた社長の早川さん、早川さんに今回の本のディレクションをお任せしたらおもしろい本になりそうだなと思っていました。

atelier naruseさんとの出会いはコチラの記事を書いています私、牧野が「atelier naruse」のファンであったことからお声がけさせていただいたことが始まりです。成瀬さんのデザインされる洋服はもちろんですが、早川さんの書かれるコピーもとても魅力的なのですね。昔のHPに掲載されていたエッセイや画家である成瀬さんのお父さん、成瀬政博さんとの往復書簡などの更新を、今か今かと待ち侘びていたほどでした(今は掲載されていないのがとても残念)。早川さんから紡ぎ出される言葉は、まるでラジオを聞いているかのようにリズム良く心地よく、時にくすくすほろほろと心に染み渡り、いつの間にか気持ちが次へ切り替わっていっているように感じます。




そんな今回のコラボニット本の企画、ニットのデザインをしていただいた成瀬さん、そして本のディレクションを早川さんにお願いすることで、より「atelier naruse」らしいお二人のことが伝わる本に仕上がりました。
はじめは編み物の本らしく、モデルさんがニットを着用した写真を構成していくという内容でした。けれどもう少しクセのあるような、手アカの残るような手づくり感の残る引っ掛かりのあるものにするためにストーリー仕立てにすることに。色々アイデアが出る中、早川さんから出てきたアイデアは、動画でストーリーを作り、そこから本に落とし込んでいくという方法でした。映画のパンフレットのような、動画の空気感も伝わる本。おもしろそう!と一気に話が進みました。






動画から本をつくる、ということは関わる人も多くなります。詳細を詰めながら熱い打ち合わせを重ね、実際に絵になるのか、動画で伝えられるかを試し撮りのロケハンを重ねて進んでいきました。



動画の撮影は早川さんの大学時代に活動していた映画サークルの先輩の北中さんにお願いすることになりました。北中さんは今回の繋がりがきっかけに、私たちの採用動画でもお世話になった方で、何気ない日常や季節の移ろいを切り取りドキュメンタリー映画のように仕立ててくださる動画のプロフェッショナルです。繊細な心の動きをすくい取ってつなぎ合わせて動画にまとめてくださいます。
ロケハンは8月、まだまだ夏の暑さが収まらない汗が止まらない季節。(北中さんがカメラテストの準備中)





ロケハンや細かな打ち合わせを経ていざ撮影日。

少し長くなりますが、ここからは撮影の舞台裏をざっとご紹介させてください。
撮影日は2日間で行われました。

まずは撮影1日目から。



出演はatelier naruseさんのオンラインストアで活躍されているモデルでお馴染みの麻絵ちゃん。兵庫県出身の麻絵ちゃん、朗らかに場の空気を和ませてくれます。見ていてこちらも楽しい気持ちになるような笑顔の中にも、ひと握りの切ない表情や仕草で親しみやすさが増している気がします。
ヘアメイクはこちらも同じくいつものメンバーの原さんに。ナチュラルだけれどもオシャレ〜!な雰囲気に仕立ててくださいます。細やかな気遣いも見習いたい。(ハンディファンでナイスサポート)




スタイリングは成瀬さんに。ニットに合わせたスタイリングも見どころ。全体はベーシックカラーですが、ちょこっと見える差し色がかわいいのですね。きなりのDufyにはピンクのギンガムチェックのシャツがちらっと見えます。




舞台裏の混雑感がすごい…笑。
実をいうと、室内の撮影は私の自宅で行うことになったですが、多い時には総勢10名に。撮影時は音が出ないようにエアコンを切って皆で息を潜めます。







そのあとはロケ地の山側へ移動。高台からの景色が抜けて見晴らしが良く素晴らしい眺め。こちらはアトリエナルセのお二人のご自宅から歩いて5分ほどの場所。宝塚市にはこんな素敵な場所があるんですね〜。




春でも夏でも編み物をする人の設定。昼間は暑いですが早朝や夕暮れ時は気持ちよさそうです。




ワンピース姿がかわいいですね。
山での撮影、この季節は虫もいっぱい。カメラマンアシスタントのセラちゃんがアブに刺されたりとアクシデントも色々。




夕方には逆瀬川駅付近の踏切での撮影。
マルーンカラー(栗のマロンに由来するそう)の阪急電車が通るのを待ち、電車の通過する時にすかさずセッティング。を、何度か繰り返します。




良い笑顔!で登場していただいたのは、ブックデザイナーの多喜さん。苦楽園のジョージ・クルーニーこと多喜さんはgalerie6c(ギャラリーロクシー)を運営しながらグラフィックデザイナーをされています。全ての撮影にご同行いただきました。今回の本は多喜さんのアイデアがたくさん詰まっています。どちらから開いても楽しめる両開きの表紙だったり、どことなくレトロな雰囲気のブルー背景のサンプル置き撮りやフォントなど。多喜さんの持っていらした昔出版された海外の手芸本がアイデアソースになっています。




早川氏と麻絵ちゃん。直射日光を避けるために大きな日傘も用意してもらいました。




撮影は夜にも続きます。



こちらは外出先から帰ってきた設定。麻絵ちゃんの羽織っているカーディガンは新作のデザインの「bosco」。




映画を観ながら編み物。コタツで編む寒い季節の幸せ。コタツで寝てしまう罪悪感と幸せ。冬だなぁ。
そんなこんなで1日目の撮影が終了しました。






撮影2日目



翌日は早朝4時半にスタート。
眠い中、みんなで早川家に集合して麻絵ちゃんのメイクに始まり、なんとか日の出に間に合ったところ。




早起きしないと見ることのできない、素晴らしい眺めの中撮影することができました。晴れて良かった!
そして皆さんたぶん寝不足だったはずなのに、そんな素振りを見せることなく撮影を続けます。(感謝)

その後はまた私の自宅へ戻り撮影。そしてまたロケ巡りへ。



次の撮影は近くの公園へ。こんなおもしろい滑り台がある公園が近くにあるなんて、とてもラッキーでした。
どこでも編み物。カンカン照りで暑さMAX。クーラーボックスも必須です。




清荒神へ移動して参道にある本と雑貨を扱っているcasimasiさんへ。本のセレクトがおもしろくてどれも気になるものばかり。
真剣に本を選ぶ成瀬さん。(こちらはロケハン時に撮影)




大所帯の撮影隊、店内に立ち替わりで入らせてもらいました。




最後の撮影場所となる、清荒神駅前にあるKIKILUAKへ。美味しいコーヒーと焼き菓子、新鮮な野菜をたっぷり使ったランチがおすすめです。図書館と併設されたこちらのカフェはご近所の方々の憩いの場。学生さんからご年配の方まで、たくさんの方が訪れます。




そんなこんなで長い長いあっという間の動画撮影の2日間を終えたのでした。撮影は全て宝塚近辺で行われました。こうして動画に、写真に切り取ってみると、自然があったり、のんびりとした街並みがあったり、美味しいカフェや本屋さんがあったり、改めて良い街だなぁと感じたのでした。

動画ではそんなどこにでもある街に暮らす、編み物が好きなひとりの女性の日常が描かれています。なんてことのない毎日だけど、ちょっとしたことに幸せを感じたり、失敗してまたやり直すことがあったり、季節の移ろいを感じたりしながら、その暮らしに寄り添うようにいつもそばにある編み物を楽しみながら日々が過ぎていきます。編み物をする人でもしない人でも、何かに夢中になる楽しさが伝わるような動画に仕上がっているかと思いますのでぜひご覧になってみてくださいね。




さて、ここからは本のことを。
動画から写真を切り取ったイメージの他に、アイテムの細部がわかるような写真もしっかりと掲載しています。こちらは「いとう写真」の伊東俊介さんに撮っていただきました。普段は“いとう写真館”として日本各地のギャラリーやカフェ、雑貨店で撮影会をされています。家族や友達、恋人、一緒に暮らす動物たちと、などなど記念撮影を主に活動されています。そんな伊東さんに今回のニットたちを切り取ってもらいました。



表紙の撮影用に衿元の織りネームを整える伊東さん。




高い位置に設置されているカメラ。建物の梁にボルトを埋め込んで固定している伊藤さんのスタジオならではの光景にみんなこぞってカメラを向けていることろ。高い位置から撮影すると真正面からの画像がきれいに撮影できます。編み物をする方は分かると思うのですが、真正面からの写真があることでアイテムの形や編み地の細かい部分も見やすくなりますよね。




イメージページの物撮りに自宅にも来ていただきました。フィルムカメラのシャッター音が響きます。


伊東さんに撮影いただいた写真は表紙にも(両面表紙の豪華な仕様)。
印刷所から上がってきた色校正。水色の背景がDufyのケーブルセーターによく映えます。



本のタイトルは『ワタシは私の時間を纏う。』です。
タイトルの意味は、ぜひ本と動画をご覧になってみてくださいね。

成瀬さんのアイデアからニットのデザインが生まれ、美しい形に、編みやすく仕上がるようなパターンに、そして編み図が出来上がりました。そして物語が生まれ、形になった本です。本に登場するひとりの主人公「ワタシ」のように、自分で編んだものを身に着ける、時間を纏うことを想像しながら、豊かな編み物時間を楽しんでみてください。











ワタシは私の時間を纏う。

2020年から始まったアパレルブランド atelier naruse(アトリエナルセ)とのコラボニット企画。 自然体で飾らない女性をイメージさせるアトリエナルセらしいデザインを、DARUMAがニットに落とし込むという共同作業を繰り返し、5年間にわたり毎年1,2点ずつを発表してきました。 この期間に発表された全アイテムが1冊の本に集約された、5年間の集大成ともいえるニットパターンブックです。

掲載アイテム
・Dufy(デュフィ)ケーブルセーター
・bosco(ボスコ)ロービングアウターカーディガン
・mong-mal(モンマル)サイドリボンベスト
・OcotA(オコタ)ハグ・ケープ
・puella(プエッラ)編み込みミトン
・gezellig(ヘゼリヒ)ボア・ミトン
・kumpel(クンペル)ケーブルニット帽
・Memories(メモリーズ)ケーブルロングマフラー

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