2015.11.12
毛糸ショップ “WALNUT Kyoto” へ
amirisuのおふたりにお話を聞きました
京都の烏丸駅から徒歩10分ほど、静かな住宅が建ち並ぶ細い路地を進むと、くるみの中にリスのロゴ“WALNUT Kyoto”の看板が見えて来ました。淡いベージュ色の建物、この2階にamirisuのおふたりが営むお店があります。
こちらのお店では毛糸や雑貨の販売、編み物教室もされています。
笑顔の素敵なおふたり。グレーと鮮やかなイエローの薄手のプルオーバーのオチアイトクコさん、あたたかそうなアラン模様のカーディガンを羽織ったタナカメリさん。どちらもご自分で編まれたニットです。ずっと気になっていたお店“WALNUT Kyoto”、この秋リニューアルオープンしたという話を聞いて、早速お話を聞いてみました。
あたたかい灯りがこぼれる店内には、海外の色とりどりの毛糸を中心に、編み物の本やパターン、かわいい手芸小物が並びます。どれもこれも素敵で目移りしてしまいます。
「壁も自分たちで塗ったんですよ。」
とメリさん。真っ白い壁が広がる店内、同じく白い棚や照明、ぬくもりのある木の質感。お二人の好きな物や色がたくさん集められた空間は、おしゃれで洗練されているけど親しみのあるような、カフェでくつろぐような、ゆったりとした空気が流れます。
おふたりが出会ったきっかけは何だったのでしょうか?
メリさん(以下:
メ)「ラベリーだね」
トクコさん(以下:
ト)「まだその頃ラベリーを使っている日本人が少なくて50人もいないくらいで、みんながラベリー上で知り合いだったの。メリさんのプロジェクトページを見て可愛かったからそこからフォローしたのが始まり。」
2011年、震災のすぐ後に出会ったおふたり。その頃メリさんは金融機関でマーケティングのお仕事を。トクコさんは主婦業を、その傍ら編み物のパターンを作ったり、講師をされていたようです。驚きだったのは、出会って3回目で雑誌を作ることを決めたそうです。
メ「トクコさんが本を作りたい、って話からはじまったんです。企画を出版社にいっぱい持っていってるんだけどなかなか難しくて…。編み物の本とか新しいものを作りたかったんです。」
ト「その時ちょうど9月だったんです。9月ってちょうど編み物の本がいっぱい出る時期じゃないですか。その時出て来た本に、私が欲しいと思うものがなかった。それだったら自分で出すしかない!って話したら」
メ「やるやるって。笑」
ト「でやることにした。」
amirisuのおふたりの始まりは、編み物の雑誌を作る所からでした。
3回目に会われた時、その時にはもう英語、日本語、両方入れようと決まったそうです。
当時ラベリーのユーザーは200〜300万人、海外の編み物をしている人が中心でした。そこに向けて雑誌を作るという企画が進んでいきました。日本・海外双方からデザイナーを公募し、デザインを決定。サンプルとパターンを受け取った後、まずはパターンの検証、翻訳、テストニット、チェックを繰り返す作業、おふたりでの制作はもちろん、専門スタッフと連携してパターンを作り上げていきます。撮影のスタイリング、モデルはお友達や知り合いの方々で。本の編集、構成、デザインはメリさんがおこないます。
“amirisu Issue 8-Fall/Winter 2015”
今回で8冊目が発売されました。
これだけのボリュームをお二人が中心となって年間3冊発行します。特に経験があった訳ではなく、ゼロからのスタートでここまで作り上げるなんて…、なんてパワフル…!
雑誌のことは後ほどまた詳しくお聞きするとして、おふたりが編み物に出会ったきっかけは何だったのでしょう。
メリさんと編み物の出会いは、小さい頃にお母さんに教えてもらったのがきっかけだそうです。その頃は表編み、裏編みの簡単な編み方を。それからは編み物にふれることはなく、お仕事もモノ作りとは違う方向へ。
そしてある時、趣味で習っていたフランス語教室のクラスメートから、編み物が趣味というお話に。
「一ヵ月とかでセーターを編めるって言っててすごいなと思ってたんです。もともと作る事も好きで、編み物もいいなと思ってちょっとやってみようかなと。」
本格的に編みはじめたのは30歳を過ぎてからだそうです。何年も続けたお仕事に新しいことがなくなってきて、何かはじめようとした時のタイミングだったんですね。そして出会ったのは英語の編み物の本。こんな可愛いのが編めるんだ!と感動したそう。けれどわからない言葉がたくさんあり、ネットで検索して出会ったのがラベリーだったそうです。
トクコさんの編み物をはじめたきっかけは何だったのでしょうか。
「母と祖母がやってたんです。祖母は着ているものを全部自分で作る人で手芸部屋があったんです。納戸に布や毛糸がいっぱいあって。
そこから好きな物をピックアップして編むんです。」
なんとも楽しそうなお家。お姉さんはピアニスト。旦那さんは植物の研究員でマイ温室を持っている…と、突っ込み所満載です。
小さい頃から普通に編み物があって、作るということ、演奏するということ、日常に創作があることの豊かさを感じます。
店内には作品例がたくさん。どれも編んでみて、身に着けてみたくなるものばかりです。
作品は雑誌に掲載されているものや、1点ずつパターン販売されているものまで色々な種類があります。
こちらで販売されている雑誌、パターンは英語、日本語が両方記されています。
海外パターンはまだまだ日本では馴染みがうすいと感じるのですが、おふたりは日本の編図からはじめたのでしょうか?
メ「私ほとんど日本の編図で編んでないんですよ。昔から手芸本を集めるのが好きでイロイロ持ってはいたんですけどどうしてもサイズが大きくて、自分の身長と体型に合わなかったんです。その時海外の編み物本を見つけて、たまたま買ってみたらサイズ展開があったんです。それからもう海外の編み図しか編んだことがないんです。」
はじめは編み方がわからなくてネットで検索して探したそうです。
でも確かに、技術を持っていないと編図のサイズを変えるのは大変ですね。
メ「はじめ作り目を何目する、次は輪にする、表裏を編んでいって、これを7cmになるまで編むって書いてあります。順番に文章で書いてあります。その通りに編んでいけば基本は出来るんです。作り目を編む時にサイズごとにわかれているので、自分のサイズを編んでいきます。仕組みさえわかってしまえば、すごく親切です。」
ト「初心者の人にはぴったりだと思う。あとこのパターンの良い所は自分の編みたい糸を好きに選べるという所。その糸で何m使ったかが編み手には必要な情報。」
針を動かしながらお話するおふたり。
海外パターンはたくさんのサイズ展開があります。
自分の持っている糸が指定糸より細ければ大きなサイズを編み、
太い糸しかない場合は小さなサイズを編む。
なるほど!自分の持っている糸、好きな糸、編みたい糸に合わせて編みたいものを編めるのですね。
海外のニット、とても自由で楽しそうです。だからこれだけラベリーでも皆がシェアをしながら広がっていくんですね。
海外でも活躍されているamirisuのおふたり。
メリさんは以前、海外ともつながりが深いお仕事をされていてバイリンガルに各国を渡って行きます。
雑誌も60店舗近くのお店に置いてもらっています。
日本との編み物の感覚に違いはあるのでしょうか。
ト「海外の人はどちらかというと、簡単に編めるものを探している様子。それと、日本はきれいに編めること。日本は使っている記号が限られていますよね。
JIS記号を出版社も本に載せている。新しい技法を入れるのが大変なんでしょうね。」
メ「新しい技法見つけて、これだともっときれいにできるとか。」
恥ずかしながら、他にも技法がたくさんあると初めて知りました。作り目だけでも何十種類とあるそうです!ケーブル編みにも色々とやり方があったり、流行によってどんどん変わるようです。奥深いニットの世界…!
ちょっとお話を変えて。
最近ちょっと耳にするようになったリトリート。amirisuでもリトリートを企画、開催されています。どんなことをするのでしょうか。
メ「日本にはまだあまりないんですけど、海外にはアートのリトリートがすごく増えてて。何日間か滞在してリラックスして、何かひとつのことに取り組む形の滞在型のワークショップというか休暇というかそういったものです。」
去年からamirisuでもイベントとして開催されています。
今年はBlooklyn Tweedからデザイナーのジャレット・フラッドさんを講師に招いての講習もありました。毎回スペシャルな講師から直々にお話ししながら教えてもらえるのもこのイベントの醍醐味ですね。ゆったりとした自然あふれる中で、編み物をしたり、散歩をしたり。同じ趣味の方々が集まるので、みんなすぐに仲良くなるそうです。楽しそうですね〜。
最後に、これからおふたりの目指すものを聞いてみました。
ト「編み物がみんなにおしゃれだと思わせたい。編んだものを着ていくと、すごく驚かれるんです。編み物なんかダサイと思ってた!って言われるのが毎回くやしくて。こんなに一生懸命楽しくやってるのに評価されないことがイヤだったんです。もっとたくさんの人に編みものってステキなものだと思ってほしいです。」
メ「それは私たちのミッションだよね」
強くうなずくおふたり。それは糸を作る私たちも同じだな、と納得しました。
もっとたくさんの人に、まだ編み物を始めたことがない人にも、ちょっと編んだことのある人にも、たくさんの人に興味を持ってもらって編み物の楽しさ、おもしろさを知っていただけると良いですね。
おふたりにお話を伺って、早く編み物がしたくてたまらなくなりました。
好きなことに向かって情熱を持って進む、それをお仕事に変えるおふたり。経験がないことでも、場所でも、はじめてのことに飛び込む勇気や覚悟にパワーをもらいました。そうやって人が広がっていく今後のamirisuが楽しみです。
amirisu
http://www.amirisu.com
WALNUT Kyoto
京都市下京区菊屋町745 若宮通松原上るビル2F
素敵な店内をぐるり。
撮影:横田株式会社 横田
文:横田株式会社 牧野