DARUMA STORE


2015.10.19

編むひと。
くげなつみ さん


東京都在住
warm work creater

私たちダルマ手編糸とくげさんの出会いは去年の11月、以前からお世話になっている出版社、主婦と生活社さんと作る毛糸作品集のデザインをお願いしたことがきっかけでした。作品集が完成した後も、くげさんは色々なニットのデザインをされたりワークショップなどで忙しい日々を送られています。今回はそんな彼女のご自宅におじゃましました。


暑くもなく寒くもない秋晴れの国立駅まで迎えに来てくれたくげさんは、いつも通りニコニコしながら私たちを案内してくれました。
ご自宅に伺うと、たくさんの本や人形が本棚の中に大切にしまってありました。よく見ると決して新しいものばかりではなくアンティークのようなものがたくさん。くげさんが小さなときから大切にしているものもあれば、フリーマーケットなどで買い足しているものもあるそうです。

なんとなく心地よい懐かしさが部屋全体に漂います。




その本棚の中から一冊の絵本を取り出して教えてくれました。

「この絵本しってますか?、編むときに読むと元気になるんです。」



その絵本は毛糸屋さんがお客さんから編んで欲しいものの注文を受けて編むお話で、くげさんは制作している時の自分と重ね合わせていました。

「この毛糸屋さんは、みんなにやさしくされて編んでるんです。」

注文を受けたものをやり直すことになり、時間がなくて編み続けるしかない毛糸屋さんを、お友達が必要な糸を用意してくれたり、お茶を出してくれたり近くで見守ってくれる様子が自分とよく似ていると話してくれました。

「制作の時期はひたすら編み続けている時間が長くて、つらくなることもあるけど、周りの人がいつもやさしくしてくれて。助けられています。」





現在は編み物のお仕事を中心にされているくげさん。
そんな彼女は、今までどのようなことをされてきたのでしょうか? 続けて話をうかがいました。

「女子美術大学の卒業後は、テレビ局の番組グッズなどをデザインする仕事のアシスタントをしていました。」

そんな日々の中で、パソコンでデザインの仕事をするよりも、かつて学生時代に制作活動をしていたように自分の手で何かをつくりたいという思いが次第に強くなり、くげさんは会社を辞められます。

会社を辞めた後は編み物作品の制作をはじめ、年に一度の展示会を毎年開催されていました。 他にも写真を撮る仕事をしたり、本のイメージカットに使う作品を編んだり、いろいろなお仕事をされていたようです。
中には裁縫箱のデザインをしたり、編み物以外にも、手芸に関わる「手しごと」をしてたこともあったとか。


実はくげさんは高校生の頃に一度編み物をされたことがあったようですが、その時はあまり楽しくなかったそうです。

「なんでなのかな?」

昔の自分を思い出そうとしてくれるくげさん。

しばらく考えて話してくれました。

「たぶん、編み図どおりに仕上げなくちゃいけないと思っていたからだと思います。」

くげさんが本格的に編みものをはじめたのは二十歳ぐらいの時、手先が器用で編み物の得意な叔母さんにかぎ針を教えてもらったことがきっかけだったそうです。

「編み図だけが編み物じゃない、自分の編みたいように編んで、可愛いと感じれたらそれで良いんだと気付いて編むことに夢中になりました。」

決められた通りにキレイに編むのが正解ならわたしが編まなくても良いし、本に書いてある編み図と全く同じ編み方にならなくても失敗だと思わなくて良いと思う。としっかりと話すくげさん。



編みものに失敗はないというくげさんはワークショップの時に生徒さんに勧めている編み方があるそうです。

その名も「ぐちゃぐちゃ編み」。

色の違う何本かの糸を併せてぐちゃぐちゃに編むこの編み方は、名前のとおりきれいに編む必要が全く無いそう。
はじめのきっかけは娘さんが小さい時に、毛糸で遊んでいて絡まってしまった糸を、そのまま気にせずに編んでみたこと。すると、細編みだけなのに思いのほか可愛くなったそうです。それに何より、世界にひとつだけ、1回きりの自由な編み地。そこには、糸で遊んだ娘さんとの思い出も編みこまれていました。時間をかけて手編みをする意味や、その心地よさが何だか分かった気がしたそうです。



編み物の技法だけにとらわれるのでなく、糸を束ねて使ったり、三つ編みをしたりするくげさんの作品。
これらの作品のアイデアはこんな自由な気持ちから生まれるのかもしれない。そう、考えさせられました。


編み図どおりに編まなければいけないと考えると、少しの失敗で完成しないこともあるかもしれない。
少しくらい間違っていても、ほつれてさえこなければ問題なく使えるし。むしろ、どうしたら素敵になるかを考えながら少しアレンジした方が、編んでいる時間も楽しめるのではないか。なるほど。


帰り道、私たちを駅まで送るために、同じバスに乗り込んでくれたくげさんの手には、サテンのリボンまで編みこまれたぐちゃぐちゃ編みで作られたカードケースが。




編み図に縛られることなく、その時の気の向くままに編まれたカードケースは”ぐちゃぐちゃ”どころか、むしろくげさんにしっかりと馴染んで見えました。

おわり

写真と文 横田株式会社 横田