2016.5.9
紡毛紡績の工場へ
その日は桜が満開で、春の匂いを風で感じられるとても心地よい日でした。
1年の中で4月にしか感じられない、世の中が気分も新たに動き始める空気感の中、私たちはその工場に向かいます。
今回は伺ったのは紡毛紡績の工場です。
紡績(ぼうせき)は、羊の毛をはじめに糸の状態にする工程で、大きく紡毛(ぼうもう)紡績と、梳毛(そもう)紡績に分けられます。
梳毛紡績は一本一本の繊維にある程度の長さがないと糸にすることができないのですが、紡毛紡績は繊維の長さが短いものも糸にすることができます。でも決して繊維が短いから良くない原料というわけではありません。例えばカシミヤなどの高級な素材も繊維が短いので、一般的には紡毛紡績で紡績されています。
できあがる糸にもそれぞれ特徴があります。
梳毛糸は繊維が同じ方向に向いているので、光沢感があり、細い糸を作るのに適していますが、紡毛糸は繊維がまっすぐではないので、糸の中に空気を多く含むことで、軽く、ふわふわと弾力性がある糸になります。
絵で表現するとこんな感じです。
簡単なのですが、紡毛紡績の工程をご紹介させてください。
まずは原料と色と紡績油がまんべんなく混ざるるように、何度か混ぜ合わせる調合という工程です。
※この日は染色してない原料が調合されていましたので、色はついていません。
次に繊維を掻き揃えることで、繊維をシート状にしたものを作っていきます。
ここでも、繊維がうまく混ざるように、繊維のシートを方向を変えてたたみ直します。
均等に混ざったシート状の繊維を、今度は縦方向に細かく分割し、糸の前の篠(しの)と呼ばれる繊維の束にします。
最後に、ミュール精紡機と呼ばれる機械で撚りをかけて糸にします。
こうして糸になるのですが、このままでは細すぎて毛糸にはできないので、何本かを撚り合せるために次は撚糸屋さんへ送られていきます。
私たちの毛糸のクラシックツイードはこちらの工場で紡績していただいているのですが、紡毛糸ならではのウールそのままの雰囲気を感じれるところが気に入っています。梳毛に比べると紡毛は、糸にするまでの工程が短いために、このような表情の糸を作ることができます。
新しい糸をつくるために、ものづくりの産地を回ることはよくあることなのですが、その時にいつも感じることがあります。それは、「糸をつくるのにはとても時間と手間がかかる」ということ。簡単にできているようですが、実は色々な工場を経てようやくできあがります。私たちは糸屋なので糸が最終製品になるのですが、洋服を作ろうと思うと、ここから更にニットや織物にし、洋服に仕立てて、世の中に送り出されていきます。ひとつの製品が売り場に並ぶまでには、いろいろな人がリレーのようにバトンを繋いでいる。そんなイメージです。
ものづくりの現場を自分の足で歩き、届けられた糸に触れると、何故かいつもとても愛らしく感じるのは
その糸に関わる人をイメージすることができるから、だと思います。
今回も写真をいくつか撮影してきました。
糸ができていく過程で、つながっているバトン。
ほんの少しでも伝われば、とてもうれしく思います。
写真と文 横田株式会社 横田