一からあつらえる。すっきり収める。
文 横田宗樹(DARUMA)
2023年3月のこと、僕は長年の夢だったお店の物件を見つけることができて、胸を高鳴らせていました。今日の話の主役であるraregemさんとの出会いは、そのころ僕から代表の西條(にしじょう)賢さんにメールを送るところから始まります。
raregemさんは東京を拠点に店舗や住宅の内装設計施工や、オリジナル生地を使ったバッグを社内で縫製しているブランドです。僕から送ったメールの内容はDARUMAのお店の内装をraregemさんにお願いしたいという内容。なぜraregemさんにお願いしたのか?その理由を説明できる言葉はそうそう見つかりませんが、シンプルな中にも細かなこだわりがある。そんなオーラが漂うraregemの空気感がとても好きでした。
写真:raregem設計施工によるDARUMA STORE -Tokyo-
内装の依頼を快諾してくれた西條さんとお互いの理解を深めつつある6月ごろ、僕たちはかねてから作りたいと思っていたオリジナルの編み針ケースについても相談をさせていただきました。raregemさんのバッグは使いやすく機能的で道具を収納するケースにはぴったり。運よくお受けいただくことができ、数回にわたる改良の試作を繰り返して、raregemさんとのコラボレーション編針ケース「Knitting Needle Bag 」,「Knitting Needle Roll」の2タイプが完成します。
Knitting Needle Bag
Knitting Needle Roll
どちらの品物も針を経糸にネイビーのラインが入ったraregemオリジナル帆布生地を使用していて、硬さと厚みがあり大切な編み針を安心して収納できるもの。白く美しい帆布も魅力的ですが、使うほどに生地が柔らかく手に馴染むようになり、少しずつ帆布生地の経年変化を楽しめるのも魅力のひとつです。
raregemさんが作られている製品の魅力についてさらにひも解くため、12月でありながらセーターを着ていると少し汗ばむ陽気の昼過ぎに、東京大田区の雪が谷大塚にあるアトリエにお話を伺ってきました。
らせん階段が印象的な素敵な建物で、1Fは西條さんが家具を製作するアトリエ、2Fは縫製作業場になっています。
2Fに上がると西條さん自らが木材を削り出し手掛けた空間の中に、白い帆布で作られた数々のサンプルが並ぶ美しい空間が広がっていました。
バッグは数名のスタッフさんの丁寧な手仕事によって、ひとつひとつ仕上げられています。
縫製部長でもあり、代表の奥様でもある西條亜紀さんにお話を伺います。
バッグを作り始めたきっかけは何だったのでしょうか?
「もともとは西條の大工道具を入れるための大きい入れ物が欲しい、ということがきっかけで、西條と西條の叔母の3人で2011年にスタートしました。」
バッグを作り始めるとだんだん普段使いもしやすい大きさのバッグが欲しいと言われるようになりラインナップが増えていったとのこと。
写真提供:raregem
使っている帆布生地はオリジナル。特注で工場に織ってもらっているものです。
特徴的なネイビーのラインが入っています。
「92cm幅が一般的な帆布サイズなんですけど、バッグを開けた時に中に縫い代が無いすっきりしたバッグを作りたくって、生地の耳をそのまま使えるように、幅の狭いものを織ってもらっています。」
バッグの内側に縫い代が無い??確かに無い。言われて初めて気が付きました。
オリジナルの帆布は一番幅の狭いもので幅48cmのものもあるそうです。
「ネイビーのラインはアメリカの古い石炭を運ぶためのコールバッグのスタイルとしてあるもので、バッグの横面にラインが入ってつながっていたらきれいに見えるし、持ち手の付け位置を表していたり、位置にも意味があるように考えています。」
凄いこだわりですね。細かいところまで。。
「私はバッグの縫製を勉強したことが無いんですけど、だんだん西條の仕事の内装のクッションだとかカーテンだとかを手伝って縫うようになってきました。それぞれ現場は形が違うじゃないですか、だからそれぞれの形に合うように“あつらえる”というか・・、どういう形が良いのかな?ということを考えるようになりました。」
「機能を満たすためには、どういう構造が良いのかな?というのを考えて作るのが楽しい、という感じです。バッグを道具として見ているので、飽きなくて丈夫なもの、一個あればそれで十分というものを作っています。」
“あつらえる。”
西條さんが何十年も使える内装や家具をひとつひとつ製作されるのと、亜紀さん達がバッグという道具を縫い上げていくのは、原点を辿ればきっと同じ気持ちなのかもしれないと思いました。
バッグを日常の道具のひとつとして捉えているraregemさんですが、ファッションブランドさんのようにシーズンごとに新作を何型も作るという選択肢はなかったのでしょうか?
代表の西條さんにお聞きしました。
「叔母と家内はアパレルの業界にいたんです。
ただ、僕はそうじゃなかった・・。
最初にミシンを買った経緯もそうなんですけど、“こういうの作ってよ。”って思うものはどこにも売ってなかったんですよね。だから自分たちで作ったんです。」
亜紀さんも続きます。
「そう、こういうものが欲しい。というのが先にあってそこから形にしていくので、先に展示会があって何型用意して。というのはなんだか落ち着かない。。自分たちが使って気に入ったものを周りの人も欲しがってくれて、少しずつ作る量を増やして、というような拡げ方をしてきました。」
聞けばオリジナルのエプロンもミシンを踏むときに足が突っ張ってしまうので、自分たちが使いやすい前が割れているデザインエプロンをつくったとか。
このように必要なものが出てきたときに新作を作る、というやり方をされているそうです。
西條さんもさらに続きます。
「洋服屋さんに作ってもらったTシャツに自分たちのロゴを入れて販売するようなやり方は、小商いしたいという下心が見えるみたいで嫌だったんですよね。
やるなら自分たちのアトリエで作れるものをやりたいと思っているんです。
背伸びしたくないんですよね。恥ずかしくて。。」
自分たちが手を動かして作っているものだからこそ、使ってくれる人にも責任をもって勧められる。
そんな作り手としての責任感に触れた気がします。
raregemさんでは何度も同じ型の商品をアップデートして改良していきます。工夫を凝らして商品を磨き続け、長く販売できるものを作っていくスタイルです。
僕が普段使っているのもBITTEという名前のraregemのバッグ。とても使いやすいです。持ち手は何度も試作を繰り返したそうで、一枚の織テープで縫われています。そうすることで持ち手の部分がすっきりと仕上り、手にも気持ちよくフィットし収まりが良い。中は縫い代が見えないつくりで、すっきりと見渡せるように収められています。
シンプルじゃないと飽きるので、何とかすっきり収めたい。そんな作り手の気持ちがこもった品物です。
あれっ?亜紀さんのセーターがダーニングされている・・
スニーカーも!?
「最初は西條の穴だらけの古いエディバウアーのセーターを直したのがきっかけだったんですけど、だんだん楽しくなってきました。今着ているセーターは、お土産でもらったもので、もう20年ぐらい着ているものなんですけど、肘がどんどん薄れてきてダーニングするようになりました。楽しいなぁって」
「ずっと長く使いたいんでしょうね。。」
大切にしているものを長く使い、壊れたら直す、ほつれたら繕う。そして、自分の手を動かすことの喜びと楽しさを見つけていく。そんなお二人の魅力が光って見えました。そしてraregemのバッグを使っている人が自分流にアレンジしてもらうのも全然かまわないとお二人はお話しされていました。
バッグがその人の顔つきの道具になっていくのを楽しみにしている、と。
丈夫に作る、洗えるように工夫する、すべては愛着のあるものを長く使えるようにするための作り手の思いやりからくる工夫。そんな思いを託された道具たちを大切に長く使えば、きっと自ずとその品物は使う人の顔になっていくのだと思います。
raregem
https://www.raregem.co.jp/